カウボーイビバップ&サムライチャンプルー 渡辺信一郎作品の美学


少し前からカウボーイビバップサムライチャンプルーの両方を観続けている。
どちらも渡辺信一郎監督作品で、原作なしのオリジナル。さらに監督本人の音楽への強いこだわりから、ヒップホップ、ハウス、オペラ、カントリーなどをBGMに積極起用する変わった音遣いがなんとも洒脱で観ていて小気味いいアニメだ。
シナリオは奇をてらわないが、歌をまるまる1個入れて回想シーンを長回しする度胸といい、一つの映像として丁寧に造ることにかなりの熱意を感じるのも良い。


しかし、渡辺信一郎作品の本当の良さは、いわゆるシブさ……叶わない夢を知り、あるいはあらかじめ知っていて、それを追いかけた果てにヘマをしてもそれ自体を洒落にしてその滑稽さを笑う、図太くも慎ましやかな笑いにある。
こういう笑いの楽しさにハマるようになってはついにオッサン化してきたかも知れんと思いつつ、その作風の根底に流れる人間という存在や運命という不条理への寛容な受容の精神は、何にも換え難い価値に見える。


この作品を観ていると、『カイジ』や『アカギ』の福本伸行の言葉が頭をよぎる。


『言葉の覇者』  赤木しげる、福本伸行、無念を愛する

【7回忌】赤木しげる名言集: カイジブログ

(Q.作品の中で一番好きな言葉は)
福本「赤木しげるが無念を愛す、と言って死んでいくんですが、そんなふうに言えたらいいな。
無念が願いを光らせる。惨めだったりつらかったり、無念を感じることはみんなも僕にもあるけど、
それはまったくだめなことじゃない。
恋愛だろうが仕事だろうが、甲子園にギリギリ出場できなくて無念で泣いた経験は、
もしかしたら光り輝くダイヤモンドかもしれない。
理想には手が届かなかったけれど、そんな無念に感じることがすごいし、
無念を愛することが大事かなと思いますね」

しかたないのさ… これも…!
無念であることが そのまま「生の証」だ…!
思うようにいかねぇことばかりじゃねぇか… 
生きるって事は… 不本意の連続…
時には全く理不尽な… ひどい仕打ちだってある…!

けどよ… たぶん… それでいいんだな…
無念が「願い」を光らせる…!
嫌いじゃなかった… 何か「願い」を持つこと… 
そして… 同時に 今ある現実と合意すること…!
不本意と仲良くすること…

そんな生き方が 好きだった…

たぶん… 

愛していた… 無念を…!

だから… いいんだこれで…!


所謂ミドルエイジの美学というのは、諦めの作法を身に付けるということだろう。
惨めに諦めるのではなく、あくまで自己流に諦める、
次を生む諦め、次に繋げるための諦めだ。
真に辿り着きたい目標を得たために、時には敢えて可能性を潰すことも必要と覚悟する。
それは醜い豚の言い訳じみた事後申告としての“訓戒”とは、形は似ていてもその意を全く異にする。


“無限の可能性”の夢の中から抜け出して、彫刻を彫るように可能性を一つずつ潰していく。
その過程の中に一筋の煌きがあり、人らしい味わいのある美が見える気がする。


物語の主人公は若く未成熟なほど面白いという一種の定石がある。
それは主人公の成長がそのまま一つのシナリオの中の仕掛けとして機能するからだが、
物語が語るべき真の面白さは、当然その若さそのものにあるわけではない。
若い時代が輝かしく見えるのは活気に満ち溢れているからだが、
若さ=活気ではない。


若さの本質は盲目にある。
だが活気、つまり人らしい生命力の源泉とは、恐れずに傷を負うことにあったはずだ。
そしてその過程を楽しむための良き作法をこそ本物のお洒落という。
渡辺信一郎作品は無頼のカッコ良さを売りにしているが、
その無頼の強さを単に己の正義への愚直な忠信ではなく、
無頼であることによって無数に直面する“無念”との付き合い方の上手さで表現するところに、
他のヒーロー物とは一線を画すハードボイルドな洒脱感を感じる。
業と戦う術こそ美学と監督自身がきちんと分かっているからだろう。


ファンタジーという体裁を取り、その設定にも細部までこだわっておきながら、
人の業と真正面から闘いを挑む姿勢に震える。
この先にどういう結論を導き出すのか、とても楽しみだ。


さあ… 漕ぎ出そう…!
いわゆる「まとも」から放たれた人生に…!
無論… 気持ちは分かる…!
誰だって成功したい…!
分かりやすい意味での成功… 世間的な成功…!
金や 地位や 名声… 権力 称賛……
そういうものに憧れる… 欲する…!

けどよ…

ちょっと顧みれば分かる…!
それは「人生そのもの」じゃない…!
そういうものは全部… 飾り…!
人生の飾りに過ぎない…!

ただ… やる事… 
その熱… 行為そのものが… 生きるって言うこと…!
実ってヤツだ…!

分かるか…?成功を目指すな…と言ってるんじゃない…!
その成否に囚われ… 思い煩い…
止まってしまうこと… 熱を失ってしまうこと…
これがまずい…! こっちの方が問題だ…!



いいじゃないか…! 三流で…!

熱い三流なら 上等よ…!
まるで構わない…! 構わない話だ…!

だから… 恐れるなっ…!

繰り返す…! 失敗を恐れるなっ…!