PIMPIN’/ロックの日によせて

スラング英語.com : 【pimp】スラング英語の意味
http://www.slangeigo.com/archives/21248005.html

もともとは、売春の斡旋業者のことを指す言葉です。HIPHOPスラングでは、最高にクールなとか、クールに(改良)するという意味でも使います。"pimpin" "pinming'"などのバラエティーがあります。ちなみに、MTVの人気番組に"Pimp my ride"っていうのがありましたよね。


2000年代はギークが“PIMP”を学ぶには最高の時代だった。


クレイジータクシーグランツーリスモCounter-StrikeギルティギアBLEACH等々、かろうじて残っていた「世代共通の文化」の中に、主にイギリスのパンクロックが紐付けされて、枠の限られたリア充の器から漏れた十代二十代はレキシコン・パンクスを知り、ドラえもんを呼びパラダイス・シティを自分のマトリックス世界のザイオンと夢見た。
オルタナティヴ・ロックの隆盛はギーク自身の人生の幕開けの象徴とされ、パンクロック・アイコンたちの居姿は、さながら正しく社会に反抗するための姿勢を学ぶギークにとっての隠された教科書だった。



世界中、日本からも数多くのプロゲーマーを輩出し、誰もが大会での活躍を目指して熱狂したCounter-Strike1.6コミュニティでは、世界中から自分や朋友のクールなプレイを見せつけるために作られたフラグムービーが投稿され、極限的な集中の中で、戦略と研鑽と瞬間的な判断が一つになった行動がいかに「音楽的」であるか、ということを知らしめた。


ギターを鳴らすだけの忍耐力や行動力のなかったギークは、代わりに録音された銃声で、タイヤの擦れる音で、空中コンボを繰り出すボタンの音で、自分だけの音楽を奏でようとした。もちろん、誰もが自分のことしか考えていなかった。いつだって考えていたのは自分の“オルタナティヴな”精神がいかにカッコよく伝えられるか、その一点だけだった。
もっとクールに、もっとハードに。各々のシーンに深く入れ込んだ者ほど、ただ闇雲に撃てばそれが伝わるものでないと知っていた。もっとリズムを知るべきだった。もっとハーモニーにこだわるべきだった。そうして自分のプレイを一つの文脈に仕立てていく――“PIMP”することで、誰にも目を向けられなかった自分の内面が世界に向かって啓かれるということを、ギークたちは学んだ。


彼らはストリートには立たなかったが、彼らはある意味で、誰よりもファッショナブルだった。
サブカル』『fanboy』『ゲーム脳』『宅八郎』『サカキバラ』などといった言葉が投げかけられた。だが一部のギークにとって、それは既に、日本に初めて来た外国人がゲイシャに見入ったり、勘違い漢字のTシャツを着て喜んでいるようなものだった。彼らはもう二度と“充実した”人生の舞台の上に立つことはできなかったが、地下に自分たちだけのフロアを作って楽しんでいた。



やがてインターネットコミュニティが社会のインフラの中に取り込まれると、
ライフログ』や『マイクロブログ』や『リング』だったはずのものは“SNS”と呼ばれ、ギークが地下に溜め込んできた精神は、「自由な交流」という名の風穴から間欠泉のように舞台の上に噴き上がり始めた。
それらは今や舞台を彩る大道具となって、ギークの一部、いやもしかしたら全部は、舞台職人としての顔も持つようになった。精神はマインドというコンテンツになり、通貨になって、ギークがこれまで手に入れることができなかったものが手に入れられるようになった。


今、ギークは充実している。
これまでにないほど認められ、受け入れられ、むしろ追いかけられている。
自分がただのエコノミック・アニマルであったことに気づき始めた者たちが、今はマインドを仕入れるためにこぞって彼らの下に集まっている。


だが、ギークよ、今一度考えて欲しい。ロックは“そう”だったか?
確かに昔も今も、「cool」や「sick」をかき集めたいという気持ちに変わりはない。
だがそれは、数字だったのか?
全国1位になることがcoolであることの証だったのか?評定5を取ることがsickであることの証だったのか?
もしそうなら、確かにシェアされるマインドこそが優れた精神になるだろう。そして人生の目的はよりシェアされる人間になることになるだろう。


だが再度形を変えて問おう、ロックは“それが始まり”だったか?
君らが後生大事に抱えてきた精神は、始めから広く人に配られるために生まれてきたのか?
だとしたら、ギークなんかにはなっていないはずだ。
精神は共有されないし、理解されない。だからこそ精神なのであり、だからこそ人は手を動かすのであり、せめて自分の音を奏でて感動を共有したいのだ。


オリジナルなライフスタイルを持ち、優れたマインドを確立し、自分をブランディングすることは必要だ。生きていくためにそれが必要な時代になりつつある。
しかしそれは、自分をどう伝えるかということであって、自分がどう合わせるかということではない。
“PIMP”とは、あくまで自分のバイクをどこまでカッコよく改造できるかであって、いかに多くの「coolと言われている」バイクをコレクションし、乗りこなせるかということではない。


それがロックの精神だと思う。